文化の違い、男女の違い

 ツイッターで、「女性の社会進出が進むのはいいけど、それが運送業などの肉体的負荷の高い業務の場合には必然的にしんどいところを男性に押し付けることになるのではないか、それは男女平等ではなく女性優遇ではないか」みたいな呟きを読んだ。
 その時にふと頭をよぎった思い出があるので、書き留めておく。なお、上記ツイートからはかなり内容が逸れてしまっている。でも何となく思い出したので。

 昔イタリアを旅行した時、宿泊したホテルのフロントマンは30代くらいの男性だった。

 最終日にチェックアウトした後、彼はその頭の中で「これは俺の仕事じゃない」という考えと「でも女性に重いトランクを運ばせるのは」という考えがせめぎ合っているのがこちらにも伝わってくるような雰囲気をまといながら、私の重いトランクをホテルの外階段の下まで運んでくれ、にこりともせずに「私が運ぶのはここまでです」と言った。

 その瞬間、いくつかの歴史的文化的な相違をそこに見出した。

・イタリアはバリアフリー化が進んでいない。
・「自分の仕事はここまで」という明確な線引きがある。
・男性は女性に親切にすべきという価値観がある。

 日本なら仕事上のそういう付随的なサービスってそこまで珍しくもないけど、向こうの働き方だと「ここからここまでが自分の仕事、あとはやらない」という線引きがあるのかもしれない。
 多分アメリカなら働く人たちはそういう価値観を持っていて(同一労働同一賃金のためには業務範囲を明確にすることが必須でもある)、イタリアについては詳しくないけどきっと似たようなところがあるのだろうと思った。
 それにも関わらず彼が給料の範囲外のことをしてくれたのは、男性の意識にやっぱりジェントルマン的な価値観があるのかもな、とも思った。
 その表情とか最後の台詞を思い出せば、思いやりと言うよりは「これをしなければ自分の沽券にかかわる」という苦渋の選択だったようにも思えたからだ。やってあげよう、ではなく、やらないとかっこわるい、みたいな(たとえそうだとしても重い荷物を運んでくれたのは素直にとてもありがたかった訳だが)。そして最低限階段の下までは運んであげたけど、これを車に乗せたりするのは俺の仕事じゃないから後は自分で対応してね、みたいな。

 イタリアは私の覚えている範囲だと建物のバリアフリー化が進んでおらず、エレベーターやエスカレーターが殆どなかった。歴史的建造物を保護するためだろう。
 観光客の訪れる有名な教会とか大聖堂とかはもちろん昔のままで、上に行きたければ延々と階段を上るしかなかったし、それ以外の名もなき建物、普通に人々が生活している街並みだってそんな感じだった。
 日本だったら、一部の指定文化財などを除き、古い建物を取り壊して最新設備を備えた建物を新しく建てたりするのはよくあるし、寺社仏閣などの歴史的な建物にだってそれなりのバリアフリー工事をしているところが多いけど、向こうは古い建物にそんなに気軽に手を加えたりできないのだろう。
 日本なら人が多く集まる観光地に階段しかなかったら文句が出そうだけど、逆にイタリアなら過去から受け継がれてきたものを変容させてしまう方が文句が出るのかもしれない。
 あと日本は基本的に木造建築だったけど向こうは石造りだから建てたり壊したりがより困難だったり、そもそも地震が少ないから一回建てられた建物はずっとそのままという無意識の考え方があったりするのだろうか。

 そんな文化や価値観の違いにふと興味深さを覚えたので、そのホテルマンのことは未だに覚えている。何となく、異国なんだな、と思った。

 何にせよ、イタリアを旅行するなら足腰が丈夫なうちがよいと思う。とにかく上下の移動は階段しかないと思っておいた方がよい。
 道とかも(幹線道路でアスファルト敷のところがあったのかどうか覚えてないけど、普通の町並みは)大抵が石畳なので、ヒールとかじゃなくて歩きやすい靴が必須だった。
 もちろん私も日中の観光の時は歩きやすい服と靴を身に着けていたのだけど、ディナーの時だけちょっとお洒落した方がいいのかと思って夕食のためにワンピースとヒールに着替えてレストランまで歩いたら、かなりしんどかったし何度もこけそうになった。
 まあ、それも含めて良い思い出だ。

 で、冒頭に戻って、もし女性進出が進んだ場合、イタリアなら肉体的負荷の重い仕事はどうするのだろうか、などと、あのホテルマンを思い浮かべながらちょっとだけ考えてみたけど、もちろんここにジェントルマン的な価値観を持ち込むのは間違っている。
 (イタリアがそうなのかどうかは定かではないけど)同一労働同一賃金を徹底するなら、例えば荷物が積み込まれた状態のトラックをA地点からB地点まで運転するのは老若男女かかわらず誰でもできるから、ここは同一賃金で、荷物の積み下ろしなど力が必要な仕事はできる人が限られてくるからこれは別業務として別の報酬が発生する、とかだろうか。
 でも、運送業界には詳しくないけど、きっとそうあっさりと解決できない諸々のしがらみや慣行や事情があるのだろう。それでも、その辺りの業務配分が曖昧なままだと、しんどいと思った男性がどんどん辞めてしまうので穴埋めに女性を採用せざるを得なくなって、けれど従来男性がこなしていた業務をそのまま女性に任せられる訳ではないので、しわ寄せが男性に来て更に男性がいなくなる、みたいな悪循環があるのだろうとも書かれていて、それは確かにありそうだと思った。

 「どういう状態が真の男女平等か」という点自体がまだはっきりしていないから、この辺りは社会全体で一層の合意形成が必要なのかもしれない。
 また、女性に限らず障害者や高齢者が働きやすい環境を作るためにも、ある程度の機械化などを更に進めていくことも必要なのかもしれない。

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