最低賃金にまつわる単なる思い出

 私が少しずつ社会に出て働き始めた頃、それは学生時代のアルバイトから始まる訳だけど、当時の最低賃金は今の3分の2くらいだった。(私の住んでいた地域では600円とかそれぐらい。)

 ただし当時の最低賃金はあくまで『最低』であって、実際の時給はもう少し高いのが普通だった。
 業種によって高い低いはあったけど、学生バイトなら大体800円台が普通で、700円台だと少し安い、900円以上だと結構良くて1000円を超えるのは家庭教師など一部の業種か深夜の時間帯だけだったように思う。それらは慣例とか市場原理によって決まっていたと思われる。

 現在は最低賃金が900円を軽く超えていて、当時と比べれば1.5倍になる。しかも毎年少しずつ改定されている。
 けれど感覚的な給与水準自体は最低賃金の上昇スピードに追い付いていなくて(フルタイムの場合の月給の水準は1.5倍などにはなっていない)、今では実際の時給=最低賃金ということは珍しくない。最低賃金が無理やり下から押し上げてくるため、パートやアルバイトは最低賃金が上がれば時給も上がる。ある意味では法律が有効に働いてるとも言えるし、自由競争に介入しているとも言えるのかもしれない。 (その良し悪しは私には分からない。)

 学生時代に私が一番長く勤めたのはレンタルショップだった。
 レンタルショップは当時でも時給が安い方だった。ただしCDやDVDを無料で借りることができたから、その分を経済的利益に換算すれば、音楽好きや映画好きにとっては悪くない勤め先だった。私自身、当時は音楽や映画にとても詳しくなったし、同じく音楽や映画の好きな仲間がたくさんできて、とても楽しいバイトだった。
 時給は一番のベテランでも700円台だった記憶がある。研修中や新人は600円台だ。

 以前にも書いたが、私は新卒の時に就職しなかったので、大学を卒業した後しばらくそのレンタルショップでフリーターとしてバイトを続けていた。
 やがて就職したくなってとある専門学校に通おうとした時、その講座の授業料は数万円だった。
 しかし当時の私が一括で支払うには手に余る額だった。そこでいったん親に借りて支払った後、毎月1万円ずつ返済していった。
 要するにその程度のお金しか持っていなかった。 時給700円台で働くと、フリーターとしてフルタイムに近い時間働いても月12〜3万円にしかならなかった。
 親は私が新卒で就職しなかったことについて特に何も言わなかったが(それが許される環境だったことは恵まれていたのだろう)、私が専門学校の学費を貸してほしいと言った時には応援してくれた。

 そうやって私は少しずつキャリア形成を始め、何年もかけて少しずつ専門性を高めていき、ある時点で雇用されることをやめて独り立ちした。
 自営業になってからは毎年200万円ずつ年収が増えていった。
 年収が一定額を超えた時点で、私はお金よりも自由が欲しくなった。そして2020年、その年収を手放してセミリタイアすることにした。
 年収が上がるほどには生活水準を上げていなかったので、セミリタイアまでの数年間でそこそこの(数千万円の)貯蓄が上積みされていた。また若い頃から株式投資をしていたのも多少は資産形成に役立った。

 ここ数年、最低賃金は毎年10月1日に上がっている。今年も上がった。
 そのニュースを聞く度に、私は自分が昔時給600円台で働いていたことをいつも懐かしく思い出す。
 そしてそこから始まって今ここにいることを考えると、それなりに感慨を覚える。この環境は一朝一夕には手に入らない。時間をかけること、そして少しずつ継続的に努力を積み重ねることは、これほどに大きな結果をもたらすのだと思う。
 これは私に限った話ではなくて、人が一人生きて何かをなすということはそれだけで大きなことだし、そこに流れる時間には他の何にも代えられない力があるということだ。
 そして私も、曲がりなりにも自分なりの人生を創り、自分の足で歩んできて今ここにいるのだなあ、としみじみと目を細めるのである。

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