怠惰への讃歌

 バートランド・ラッセルといえば『幸福論』で有名だと思うが、彼の著作『怠惰への讃歌』が本棚にあったので、改めて手に取ってみた。これはいくつかの短編からなっている一冊で、少なくともその中で表題作の『怠惰への讃歌』だけは読んだはずだけど、例によって内容をあまり覚えていない。でも、セミリタイアした今また読んでみると良さそうだと思ったので、再度読んでみた。

 多分、これを買うということは、買った時点でも無意識の中にセミリタイア願望があったのだろう。そして今また読もうと思うからには、まだ無意識下にフルタイムで働かないことへの罪悪感が根強く残っているのだろう。

 これの他にも働かない生活を推奨する本はたくさんあるが、その中のいくつかは手元にある。その多くは、個人の生活、信条、心理、あるいは経済力等に焦点があてられたものだが、ラッセルのこの作品は、マクロな視点から、人間の労働時間を一律に削減することについて述べられたものである。

 実際のところ、再読の前後で特に私の気持ちが大きくした訳ではない。ただ、とても頭のいい人が一昔前の時点で既にフルタイムで働かなくてもいいと言っていたということが、一瞬少しだけ私の気を軽くしてくれて、でもそれは深層部分にまでは全く届かず、根本的な変化を生じさせるには至っていない、それだけのことである。本にはそれほど直接的な変化への効能がある訳ではない。でもどこか見えないところで自分自身の栄養となって、いつか何らかの形で芽が出てくることがあるかもしれない。

 そうやって、これからも少しずつ時間をかけて自分の考え方を変えていくしかない。万が一変わらなければ、またフルタイムで働くか、あるいはこのまま罪悪感を抱えながらも怠惰に過ごしていくことになるのだろう。この状態を怠惰と呼ぶのは、それ自体が価値観に変化のないことの証である。そしてこの本のタイトルが目に入ったのも、やはりまだ自分自身の価値観が変わっていないことの証なのだろう。

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