鳩と猫の観察記録(雑記)

 小ネタ2つ。

1.鳩

 普段よく通る川沿いの遊歩道が、鳩のたまり場になっている。

 鳩はどちらかといえば嫌いな方なのだが、私が近付いていけば向こうの方で逃げていってくれるので、特に問題はない。また、時間帯によって一面にいることもあれば、全くいないこともある。鳩なりに日課の時間割があるようである。

 ある時、また鳩が群れる中で何気なくその遊歩道を歩いていたところ、私が近付くにつれて、近くにいる鳩が逃げていった。いや、逃げようとしていた。

 逃げようとしている気持ちはよく分かる。こちらは特に何も考えていなくても、鳩にしたらそこそこの恐怖感を持って逃げていただろうと思う。ただ、その逃げているつもりであろう鳩は何故か、私が進む方向にわざわざ進むのである。だから私が歩くにつれて、歩幅の違いからむしろ私と鳩の距離は近付いていく。鳩が更にスピードを上げて逃げる。いよいよの時には羽ばたいて、何とか逃げることに成功していた。

 その鳩のたまり場を通り抜けながら、ああそうか、と思った。

 私は何を考えることもなく、真ん中にある石畳の通路を進んでいた。左右には芝生があり、ところどころに木が生えている。だから、私から逃げたいのであれば、その石畳の通路からなるべく離れるのが正解である。ところが、あいにくこの石畳の通路はカーブを描いていたのである。鳩の目から見れば石畳の通路なんてものはなく、ただ一面の景色の中に固い部分と草の生えた部分があるというだけであっただろう。だから、鳩は私が当然そのまま直進するものと想定して、その直線コースからなるべく離れようとするのだが、一方で人間の目からすれば、最短距離を直線で進むのではなく、石畳に沿ってカーブを描いて歩くのが正解というか常識なのである。芝生はなるべく踏んではいけないものなのである。結果として、私は鳩が逃げていく方に方向転換して進む形となった。鳩にとっては、人間がわざわざ方向を変えて自分の後を追ってきているように感じただろう。別に鳩なんて眼中になく、目的地に向かっていただけなのだけど。

 人間と鳩との風景に対する認識の違いに思い至って面白かった件。

2.猫

 野良犬は最近はほぼ見かけなくなったが、野良猫はまだ見かけることがある。猫は好きだから、見付けると少し嬉しいし、つい見てしまう。

 人慣れしている猫もたまにいるけど、大抵の猫はこちらが視線を向けると一様に警戒し、距離が近ければ逃げる。距離がある程度遠ければ逃げはしないけど、こちらが通り過ぎて遠ざかるまでは、視線を逸らせつつもずっと気を張っていて、たまにちらっとこちらを見て私がまだ自分を見ているか確認したりしている。目が合うとまたさっと目を逸らす。逸らしたまま全開でこちらを意識している。その一連の行動が自意識過剰に思えて微笑ましいけれど、猫にしてみたら生き抜くために必須の警戒なのだろうし、それを考えると、じっと見てしまって申し訳ないと思う。逃げられたくないから、気付かないふりをしながら横目で見つつ歩くこともある。

 こちらには攻撃の意図なんてないので、むやみに警戒するのは自意識過剰と言えるかもしれないが、それでもいわゆる「自意識過剰」とは決定的に異なるのが、その野良猫は、自分が可愛いから見られているのだとは夢にも思っていないであろうことだ。人間だと、特に若い頃にもし他人から見られたら「自分に気がある」なんて思ったりしがちで、これが典型的な自意識過剰であるが、おそらく世界中の野良猫でそんな認識をする猫は一匹もいないだろう。

 ただ、もし飼い猫だとしたら、「この人間、私が可愛いから見ているのね」なんて悠然と構えている姿が想像できなくもない。いささか擬人化されすぎた妄想かもしれないけれど。それがまた猫の可愛いところである。

 対して犬の場合、もし道端でこちらと目が合えば、多分こちらに興味を持って尻尾を振って近付いてくるように思う。それはそれで可愛い。ただ、この想像は散歩中の飼い犬を前提としているので、野良犬だったらもしかして野良猫と同じような警戒心を持っているのかもしれないけれど、あいにく今までほとんど野良犬を見たことがないために上手く想像できない。もしかして野良犬だったらやっぱり逃げるのかもしれないけど、その場合はやっぱり自分が可愛いから見られているのだなんて思う犬はいないだろう。

 犬よりも猫の方が尚更他者からの視線を嫌うと思うけど、それでも可愛いが故に見られてしまうというのは、猫自身にとっては不幸なことである。これは人間の美男美女でも同じかもしれない。自分は他人に見られるのが好きでもないのに、自分ではどうしようもないような外見の魅力によって他人の視線を引き付けてしまうというのは、本人にとっては辛いものだろうなと思う。

 いつも、道端でこちらと視線が合って警戒している猫を見るたびに、そんなことを考えている。あなたは嫌だろうけど可愛いから見てしまってごめん、と思う。

 それにしても、猫というのはどうしてあんなにも可愛いのだろう。