私の健気な身体

 気力が落ちて、食事量が減っている。結果として体重も減っている。コロナ騒ぎでジムが休館し筋トレができていないから、筋肉も徐々に衰えているのだろう。


 セミリタイアする前も、今と同じような状態になり、体重が減った。しかし体重が減るというのは喜ばしいことだという現代的な価値観を捨てきれないので、ある程度静観していた。どうしてもまずいくらいになったら対応しようと思っていたが、なんだかんだ言っても自分はそこまでいかないだろうなとも思っていた。

 眠れなくて、毎日明るくなるまで起きていた。頭の中でぐるぐると思考が巡り、そうなると頭が冴えて眠れないことも知っているから、開き直って本を読んだりもした。明け方にようやく眠りに落ちて、いつもと変わらないか少しだけ遅い時間に起きる。そしていつもと同じように仕事やその他の作業をする。あるいは結局眠れないまま起きる時間になる。逆に、何日かの睡眠不足によってすんなり眠れる日もたまにあった。そうやって自分の体が生命維持してくれるのに任せていた。意思の力ではどうしようもないから仕方がない。日中に眠くなることは不思議とあまりなかった。セミリタイアする直前の1ヶ月間の睡眠時間総量は、普段の半分ほどだったと思う。

 食事もそうで、そもそも料理するだけの気力がなかった。お惣菜を買いに行くのだけど、食べたいものがなかった。段々と仕事帰りに食べ物を買いに行くことすら面倒になってきて、そのまま家に帰ることも増えた。それでも家には何なりと食料はあって、いざとなれば籠城しても2ヶ月くらいは飢えないかなとも思ったけど、あいにく普段食べないレトルトやインスタントは保有しておらず、乾物とか冷凍肉とか玉ねぎやじゃが芋など調理しなければ口にできないものは役に立たなかった。何もせずに食べられる果物をよく食べた。お菓子もそうだったけど、お菓子は今までずっと別腹だったのに、とうとうお菓子にすらあまり興味がなくなった。でも拒食という訳でもなかった。

 やる気を別にすれば日常の活動はこなせているから、そこまで深い鬱という訳でもない気がした。単に不幸ぶって自己憐憫に浸っている可能性もあると思った。食べたくはないけど食べられない訳ではないから、体のために食べていた。私の意思と関係ないところで生命を維持してくれるこの体がありがたいと思い、せめて邪魔してはいけないと思ったから最低限の栄養は摂った。

 週に一度のジムでの筋トレはこなしていたが、ずっとだるくて粘れないことは自覚していて、トレーナーにも伝えた。筋トレを頑張ることができないから、少なくともたんぱく質摂取量は維持しようと思ってプロテインを食事にした。楽なのでちょうど良かった。

 そうやって1ヶ月で4キロ体重が減った。もちろん脂肪だけが都合よく減ったとは思っていないし、セミリタイアが実現してまた健康的に食べられるようになればすぐに元に戻ることも分かっていた。

 私が頭の中でどれほど苦しいと思っていても、身体的な生命活動は別だった。別であるのが幸いだった。足りているのかどうか分からないけれど、少なくとも800~1000kcal位は毎日何かを食べていたし、普段の半分程度であっても睡眠をとっていた。本当に飢えて本当に寝不足になったら、体はそれこそ意思を無視した強い欲求によって必要なものを得ようとするだろうから、私がこうやって少し弱っている気がするのも現代人特有の甘えだろうなと考えていた。多分もっと昔の、食料を手に入れるのに明確な努力が必要だった時代には鬱なんてなかっただろうから。

 それに、気力が回復した後の未来を考慮に入れているだけまだ希望は持っている状態だったから、今というより将来のために可能な範囲で健康の維持に努めた。筋トレで筋肉を疲労させ筋繊維を断裂させた後はそれを補修する材料となるたんぱく質が必要で、またそれを吸収させるためには糖質も必要で、たんぱく質や糖質をしかるべく使用するための各種ビタミンが必要で、これは筋トレする場合の基礎的な知識を素人なりにざっくり理解したものだけど、この他にも私がきちんと把握すらしていない数多くの機能が体にはあって、そのために様々な栄養が必要になる。本当に病んだら食べようと思っても受け付けなくなるだろうから、食べようと思えば食べられるようであれば表面上は何ともなかった。ただ食にすら興味を持てなくなる状態はいつもの自分ではあり得ないのでおかしいとは思った。

 その後セミリタイアして、睡眠時間と食欲は回復した。体重も半分くらい戻った。そんな中で多少気力が上下しつつも日々を過ごしており、その中で考えたことの一部はこのブログにも書いた。

 そうやってある程度前向きになってきたけど、ここ数日また気力が落ちてきている。睡眠時間はそれほど変わらずなので前ほどではない。でも食に対する興味がまた失われてきている。様々なことに向かっていた興味もまた薄れてきていて、ずっと本を読んで現実逃避している。体もあまり動かしていない。

 今は筋トレはできていないけれど、同時にまた摂取カロリー量も減っていて、日常生活で必要な量の栄養を摂れているかどうか分からない。多分足りなかったら脂肪なり筋肉なりをエネルギーに変換して日々の活動に充当してくれているのだろう。特に何をするわけでもなく時間を無為に過ごしているのに、そんな間でも常に私の体は私の運動不足や栄養バランスの崩れから負の影響を受けながらも、できる範囲で内臓から骨や筋肉から皮膚から色々なところを常に維持してくれている。そんなことを考えると、その健気さに泣けてくる。ホストがこんなんで申し訳ないといつもの自己否定的な自動思考に流されそうになる。

 今は少し前のような料理に対するやる気も消失しているけど、それでもなるべく体に良いものを簡単に食べようと思っている。果物、生野菜、ナッツなどはそのまま食べられる。芋類はまとめて加熱して置いておく。たんぱく質は肉でも卵でも塩味で焼くだけでいい。それすら面倒だったらプロテインでいい。

 そうやって、また気力が回復するまで、なるべく体に迷惑をかけないようにしようと思っている。